大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所宮崎支部 平成4年(ネ)182号 判決

控訴人(被告)

植村友絵

被控訴人(原告)

都城市

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

一  控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、主文同旨の判決を求めた。

二  当事者双方の主張は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決二枚目裏末行「寺師側」を「寺師の進行道路側」と改める。

2  同六枚目表三行目と四行目の間に次のとおり加える。

「(五) 交通事故による被害者の請求権は、国保を利用するときは、国保に対する療養給付請求権と自賠責保険に対する請求権が併立して発生し、この関係は、被害者に対し、国保と自賠責保険が連帯して債務を負担しているものと同視でき、したがつて、国保が自己の負担した療養給付につき被害者の損害賠償請求権を代位取得してその権利を行使することは、連帯債務者間の求償権行使の関係と同一と解することができる。そうすると、民法四四三条二項により、被控訴人は、国保による給付をしたときは自賠責保険に通知をすべきであるのにこれを怠つているので、これを知らないでした自賠責保険の弁済が有効であつて、国保の代位取得した損害賠償請求権の行使は許されないものというべきである。」

3  同六枚目表四行目「(五)」を「(六)」と改める。

4  同六枚目表一〇行目「前記」の前に「国保から自賠責保険に対する求償事務については、昭和四三年一〇月一二日付け保険発第一〇六号により「健康保険及び国民健康保険の自動車損害賠償責任保険等に対する求償事務の取扱いについて」の通知(以下「求償事務取扱い要領」という。)が発せられ、これにより国保等の保険者が保険給付を行つたときは、自賠責保険を取り扱う保険会社の管轄店に文書による照会をすることになつているのに、被控訴人は、これをしていない。したがつて、」を加える。

5  同六枚目裏三、四行目「寺師をも放置したまま」を「寺師に対する不当利得返還請求又は国保法六五条による不正利得の徴収をしないで」と改める。

6  同八枚目裏三行目「同3は争う」を「同3のうち、求償事務取扱い要領の存することは認め、その余は争う」と改める。

三  証拠の関係は、本件記録中原審及び当審における書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  当裁判所も、被控訴人の本訴請求は理由があるものと判断するが、その理由は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決理由説示と同じであるから、これを引用する。

1  原判決九枚目裏一行目「ところで」から同末行末尾までを次のとおり改める。

「ところで、国保法六四条一項によると、保険者が損害賠償請求権を代位取得するためには、〈1〉給付事由が第三者の行為によつて生じたこと、〈2〉保険者が保健給付をしたこと、〈3〉被保険者が損害賠償請求権を有していることの三つの要件が必要と解され、これを満たすときは、被保険者の損害賠償請求権は、その給付の価額(当該給付が療養の給付であるときは、当該療養の給付に要する費用の額から被保険者の負担すべき一部負担金に相当する額を控除した額)の限度において法律上当然に保険者に移転するものであるが、さらに、同条二項において、保健給付を受けるべき者が第三者から同一の事由について損害賠償を受けたときは、保険者は、その価額の限度において、保険給付を免れる旨規定し、被保険者に対する第三者の損害賠償義務と保険者の保健給付義務とが相互補完の関係にあり、同一の事由による損害の二重填補を認めるものではないことを明らかにしている。そして、控訴人の前記主張は、要するに右〈3〉の要件である被保険者の損害賠償請求権は、前記当事者間に争いのない自賠責保険からの支払いにより消滅しているというものである。」

2  同一一枚目裏五行目「あつたとはいえない」を「あつたとはいえず、したがつて、同請求権が既に消滅しているということはできない」と改める。

3  同一二枚目表四行目「給付がされた後であること」を「給付がなされた後であり、その時点において、被控訴人は既に損害賠償請求権を代位取得していたものであること」と改める。

4  同一二枚目表五行目「損害」の前に「、その性質上、」を加える。

5  同一三枚目表九行目「また」を「また、控訴人の抗弁2の(四)、(五)及び同3の主張について」と、同一〇行目「その他」を「その他、被控訴人において「求償事務取扱い要領」(同要領の存在については当事者間に争いがない。)に従つた事務処理の方法を採らず、」とそれぞれ改める。

6  同一三枚目裏一行目「原告」から同三行目末尾までを「被控訴人が代位取得した損害賠償請求権が存在しない、あるいは消滅したとか、またその行使が許されないなどということはできず(控訴人主張の、被害者に対する国保の療養給付義務と自賠責保険の損害賠償義務が連帯債務の関係にあるとの主張は、採用できない。)、したがつて、被控訴人の請求が権利の濫用に当たるとも解せられないので、控訴人の右各主張もまた理由がない。」

二  よつて、原判決は相当で、本件控訴は理由がないので、これを棄却することとし、控訴費用の負担について民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 鐘尾彰文 中路義彦 郷俊介)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例